
学生時代に英語スピーチの研究に携わっていまして、現在も趣味の一環で都内の私立大学を中心に大会の審査をお引き受けしているのですが、昨年、現役の学生さんたちがスピーチを「評価する」立場に立ったとき役立つリソースを残そうと思いまして、審査に関するノウハウを冊子にまとめました。フリーリソースとして希望があれば配布しているものですが、より多くの人に役立ててもらえばと思い、この度Webに掲載しました。ご自由に活用してもらえれば幸いです。
ESSのスピーチにおいて、Judgeとはどのような存在か」――それは「聴衆の代表であり、大会とスピーカーに対する奉仕者」です。この本は、ESSスピーチ審査を始める手引きとして、Joint形の大会を前提に、ESSのスピーチ大会で理想的な審査を行うためにはどうしたら良いかについて、大きく3つの手順に分けて具体的に説明します。内容はすべて実際の審査で役立てられるものです。これからスピーチの「審査」に取り組むみなさんの、ガイドブックとして活用してもらえれば幸いです。
まえがき
この本は、これからESSスピーチの審査に取り組む上級生や、新任インストラクターなど、審査経験が比較的少ない人のために書かれた実用的な手引きです。この手引きでは、主に学内スピーチ大会やJoint大会でのプリペアードスピーチの審査を前提に解説します。なぜなら、これからスピーチの審査に取り組む上級生や、新任のインストラクターは、まずこれらの審査を中心に行うからです。
内容は、審査依頼が来てから大会が終わるまでの時系列順で説明します。審査に当たっての心構え、審査依頼が来たら確認すべき点、事前原稿の読み方、Questionの考え方・しかた、効率的で公平な採点方法、レセプションでのフィードバックのポイント――などです。順番に読んでいってもらえれば、審査の流れをそのまま理解することができます。皆さんがこの手引きで得られた知識は、ぜひ実際の大会の審査に取り入れて、活用してみてください。
ただ、もしこれを読んだみなさんが、もっと効率的で、良い審査をできる手順や方法があると思ったら、遠慮なく取り入れてみてください。そしてそのノウハウを、一人でも多くの人と共有し、引き継げる形で残してみてください。そうすることで、審査の知識が体系的に蓄積されます。そして次の世代、また次の世代が、それを研究することで、より公正に審査を行える、優秀な指導者をたくさん育てられるからです。
「なぜこの本を書いたのか」
この手引きをまとめようと思った一つ目の理由は、良い審査をできる現役の学生が一人でも増えてほしいと思ったからです。僕は2011年にスピーチインストラクターを務めました。インストラクターの間は、年間16の大会を審査しました。4年間で研究・添削したスピーチは述べ500本に及びます。たくさんの大会で審査を引き受け、スピーチの添削をしていたので、今だにさまざまな大学の学生が、つてをたどってスピーチ大会の審査を依頼してきてくれます。「去年もやっていただいたんで、今年もお願いします」とか「OGの〇〇先輩に白岩さんのことを聞きました」とか、理由はいろいろです。
しかし僕のところに依頼が来るということは、ありがたい反面心配なこともありました。例えば、人手が足りていないのではないかとか、むしろ自分が関わることで後進の育成を妨げて、人手不足を生んでいるのではないかなどです。そこで、これまで自分が蓄積したESSスピーチの審査ノウハウをまとめ、これからスピーチの審査に関わる子たちに活用してもらうことで、次の世代で審査に携わる人たちを一人でも多く育てる力になれればと思いました。これが一つ目の理由です。
もう一つの理由は、審査手順や方法を体系的にまとめた実用書がなかったからです。毎年K.U.E.L.が主催する「春の大セミナー」では、インストラクターが文字通り寝る間を惜しんで書き上げた、数十ページに及ぶスピーチマニュアルが配布されていました。そこには、「スピーチとは何か」から始まり、英語スピーチの種類、原稿作成の手順、リサーチやブレインストーミングの方法、立論の仕方、レトリックの種類、正しい発音、効果的なデリバリー(声調態度)のポイントなど、およそ英語スピーチを理解するために必要な項目がほぼすべて網羅されていました。
ところがこのマニュアルには、唯一毎年載っていないものがありました。それが「審査の方法論」です。なぜ審査の方法論については載っていなかったのでしょうか。答えは簡単で、このマニュアルを読むのは現役のスピーカーであり、審査を務めるインストラクターではないからです。
ではインストラクター向けに、審査の手順や方法について研究した実用的なマニュアルや手引きがあったかというと、少なくとも僕は見聞きしたことがありません。だから僕自身も、失敗を重ねながら、手探りで学んできました。
そこで、ESSスピーチの審査ノウハウを体系的にまとめることで、後の世代の子たちが、より良いESSスピーチの審査とは何かを研究する題材にしてくれたらと思い、この手引きを作ることにしました。これが二つ目の理由です。この手引きが、これからESSスピーチ大会のJudgeに取り組むみなさんの参考にしてもらい、どうやったら良いJudgeができるか考える題材にしてもらえれば幸いです。
Judge側も気をつけるべき大切なことだと感じました!